心臓の音|マレーシアのひばりクリニックで赤ちゃんのエコーを見た日


2026年、マレーシアで暮らす私たち夫婦に、子どもが生まれました。
この「育児の記録」では、妊娠から出産、マレーシアでの子育ての中で起きたことや、
そのとき私が感じたことを記録していきます。


妊娠が分かって、妻が一時帰国の関係で、

日本できちんとお医者さんに診てもらったときのことです。

豆粒のようなものが写っている真っ黒な写真を見せてもらいましたが、

まったくもって実感というものはなく、

「ほーん」

という感じでしかありませんでした。

(ごめんなさい)

とはいえ、どうやらきちんと生き物として、妻のお腹の中にいるらしい。

妻の方はというと、ありがたいことに、いわゆる「つわり」はほとんどありませんでした。

吐き気がしたり、頭痛がしたり、食べられないものが出てきたり、

ということもほとんどなかったらしく(本人談)、

目立った変化といえば急激に眠くなることくらいでした。

そんな感じだったので、妊娠によって私たちの生活が大きく変わることもなく、

(なんなら半年前から計画していた旅行にも行ってしまい)

「まぁ、気をつけていこうね〜」

くらいで生活していました。

まだ見た目にもほとんど変化がない時期です。

私には、親になるという自覚など、まったくと言っていいほどありませんでした。

良くも悪くも、ただただ普通に過ごしていました。

妻がマレーシアに戻ってきてから一ヶ月ほど経ったころ、

定期検診のため、「ひばりクリニック」へ行きました。

ひばりクリニックは、日本語で対応してもらえる日系のクリニックです。

私たちが利用した当時は、妊婦健診も最低限ではありますが対応してもらえるとのことだったので、

今回はこちらで診てもらうことに。

そこに私も一緒についていくことにしました。

妻はお医者さんから健康状態について聞かれ、簡単な血液検査なども受け、

「特に問題ないですね〜」

と、健康状態には太鼓判を押してもらいました。

その少し前に旅行へ行っていたので、私は勝手にちょっとだけ心配していたのですが、ひとまず安心しました。

そして、

「では、エコー検査をしましょう」

という話になり、私も一緒に見せてもらうことになりました。

妻が診察台に寝転がり、お腹にジェルのようなものを塗られていました。

その横に置かれた機械を見ながら、

「ほぉ、これがエコー検査の機械かぁ」

と私は思いました。

この機械を間近で見る機会なんて、私の人生でもそうそうないだろう。

そんなことを考えながら、物珍しそうに機械そのものを眺めていました。

「では、電気消しますね〜」

看護師さんが部屋の電気を消しました。

少し暗くなった診察室で、お医者さんが検査機を妻のお腹に当て、

おもむろにぐるぐると動かし始めます。

ジェルを伸ばしているというのもあるのでしょうが、

どうやらお腹の中の赤ちゃんを探しているらしい。

そうか。

まず、探すところから始まるのか。

白黒の画面には、ぐにゃぐにゃした、私には何が何だか分からない映像が映っています。

けれど、お医者さんはその中から確実に何かを探り当てていきます。

「この辺かな」

というところから、今度はボタン操作も加わりました。

どうやら赤ちゃんのサイズを測っているようでした。

妊娠何週目なら、このくらいの大きさ。

そういうことまで画面上ですぐ分かるようになっています。

当たり前のことなのでしょうが、初めて目の当たりにした私は、

「なるほど、よくできてるな〜」

なんて、映像よりも機械そのものに感心していました。

そんなことを考えていた、その次の瞬間でした。

それまでぐにゃぐにゃしていた白黒の画面に、突然、人間の赤ちゃんらしい形が映りました。

その瞬間、昔、理科の教科書か何かで見た「妊娠○週目」の写真が頭の中にフラッシュバックしました。

うわ、人じゃん……。

と思った、さらに次の瞬間です。

お医者さんが別のボタンを押しました。

ドン、ドン、ドン。

力強い低音が、暗い診察室に響きました。

なんだ、この音。

そう思ったところで、お医者さんが言いました。

「これが心臓の音ですね〜」

その瞬間、私の中に電撃のようなものが走った気がしました。

生きている。

ここに、新しい命がいる。

それまで写真を見ても、妻から妊娠したと聞いても、どこか現実味がありませんでした。

でも、その音だけは違いました。

ドン、ドン、ドン。

妻のお腹の中から聞こえてくるその音を聞いて、

本当に親になるんだな。

と、初めて少しだけ思いました。

もちろん、その瞬間から何かがガラッと変わったわけではありません。

急に父親らしくなったわけでもない。

ただ、それまで「妻が妊娠している」という情報だったものが、

初めて「ここに誰かがいる」という感覚に変わったような気がしました。

その後、先生がエコー写真などを印刷してくれて、一通りの診察は無事に終了しました。

血液検査なども含め、診察費用はRM300、当時のレートで約11,000円ほど。

妊娠に関わる診察のため、保険などは適用されません。

日本の母子手帳も持っていましたが、

こちらでは日本語と英語の両方が載っている特別版の母子手帳も用意してもらいました。

通常のものより一回り大きいのですが、内容はほとんど同じです。

マレーシアでいただいた母子手帳

そして今、改めてそのときのエコー写真を見てみると、

やっぱり何が何だか分かりません(笑)

あの日、あれほど「人じゃん」と思ったはずなのに、写真になると相変わらずよく分からない。

それでも、暗い診察室に響いた、

ドン、ドン、ドン。

という音だけは、今でも覚えています。

私が「本当に親になるらしい」と、初めて少しだけ実感した音でした。

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